「データ・AIを使いこなす『人・組織』になるには」イベントレポート

企業の成長において、データ分析とAIの活用は不可欠な要素です。これらの技術を社内で効果的に活用することが、競争優位性を高める鍵となります。
一方で、現在の日本はデジタル人材が不足しており、その育成が急務となっています。更に、生成AIの台頭など市場環境の急速な変化により、多くの企業がデジタル人材の必要性を認識しているものの、どのようなスキルが必要で、どのように育成すべきか、組織でどのように推進すべきかを具体的に理解できている企業は少ないと言われています

この背景を受け、 LINEヤフーアカデミアとLINEヤフーテックアカデミーは2024年1月29日に企業の人事、育成担当者を対象に「データ・AI を使いこなす『人・組織』になるには」と題したカンファレンスを開催しました。

カンファレンスは株式会社一休とLINE株式会社(現:LINEヤフー株式会社)のデータ活用事例や、社内におけるデータ活用の推進方法をもとに、データ・AIを活用した人材育成と組織の変革について学びを深める場となりました。当日は、伊藤羊一学長がモデレーターを務め、一休の榊淳社長とLINEヤフーの佐久間祐司がパネリストとして登壇しました。

国内のデータ活用状況について

伊藤からは国内のデータ活用状況に関するデータが提示されました。欧米や中国では積極的なデータ活用が進んでいる一方、日本ではまだその水準に達していないことが明らかになりました。最大の課題は「ノウハウを持つ社員の不足」で、83%の企業がこの点を問題視しています。

「データの利活用における課題として、他にも『経営者の理解不足』が23%という結果が出ている。人材が不足しているだけでなく、経営者の理解不足で、そもそも企業でのデータ活用が進まないということも実はあるのではないか」と伊藤は話します。

データ活用の必要性は理解しているものの、実際にどこから手をつければいいのかわからないというのが一般的な状況です。そこで本カンファレンスの登壇者である榊からは経営者視点での、佐久間からは人事の現場視点でのデータ活用事例が紹介されました。

株式会社一休におけるデータ活用

データ活用の必要性は理解しているものの、実際にどこから手をつければいいのかわからないというのが一般的な状況です。そこで本カンファレンスの登壇者である榊からは経営者視点での、佐久間からは人事の現場視点でのデータ活用事例が紹介されました。

「社員一人あたりの営業利益率が高いことで、採用もしやすくなるなどの好循環が生まれている。事業でデータとAIをうまく活用できたからこそ、企業の成長に繋がったのではないかと考えている」と榊。

一休でのデータ・AI活用方法の一つには、ユーザー一人ひとりに合わせたサービス提供があります。同じ検索条件でも、顧客の過去の行動履歴に合わせて、検索結果をパーソナライズし、異なる結果を表示しています。

具体的な活用例としては、予約をしなかったユーザーに割引クーポンを提示したり、AIを用いてユーザーが宿を予約する確率と割引クーポンの影響を計算したりしています。
また、一休においてはユーザーの過去の行動を分析するだけでなく、リアルタイムでも同様のデータ分析を行っています。一休のサイトに訪問したユーザーのリアルタイムでの行動データを活用し、最適なタイミングで宿泊先やレストランの割引クーポンなどの最適なオファーを提示することで、ユーザーの満足度と収益の両方を向上させています。
多くの企業でもサイト訪問データ、閲覧データ、購入データを閲覧・分析は可能ですが、一般的には外部のツールを使うことが多いため、リアルタイムで分析することが難しくなっています。しかし一休では社内でインフラを内製化することで、このような分析が可能になっています。

LINEヤフー株式会社におけるデータ活用

LINEでは人事領域でのデータ活用を推進し、組織の迅速な成長を支えています。ダッシュボードの自動更新システムを導入することで、人事担当者は日々の計算業務から解放され、より戦略的な人事管理に注力することができるようになりました。

2017年当時のLINEは、年間で社員増加数30%、組織編成24回、稼働中のサービスは100を超えていましたが、人事領域でのデータ活用は進んでいませんでした。

「会社の急激な成長と共に、組織編成や社員の入れ替わりも激しくなる中で、人事は常に組織別の退職率などの計算、データ提供に追われていました。その頃はExcelを使って計算することが当たり前でした」と佐久間。

短期間でアップデートされていくデータから最新の情報を出力する煩雑さから、データを一元化して分析可能な状態にすることを決めました。

まず佐久間は、勤怠管理・経費精算など独立した複数の人事システムを1つに統合するためのデータベースを作成。「人事情報の閲覧」「組織状態の可視化」「データアナリストの分析・検証用」と3つのアウトプット先を設けました。

次にそれぞれの人事システムからCSVをダウンロードして、1つのデータベースに載せる作業を地道に行い続けました。社内で新たな課題や要望が生じた際には、佐久間が積極的に関わり、必要なダッシュボードを新たに作成。組織別の人員構成やプロジェクトの進捗、勤怠実績など、予測可能なあらゆる項目に対してのダッシュボードを開発した結果、人事部門専用のダッシュボードは合計200以上に増加。ダッシュボードを作ったことで、Excelで計算するよりもスピーディーにデータを出力できるようになりました。

さらにデータ分析・活用の成功事例として、佐久間は「リファラル採用の強化」を挙げます。当時のLINEではリファラル採用を強化する上で、現在までの応募数や採用実績、リファラルの紹介者などのデータを集約する必要がありました。データベースを駆使してこれらの情報を収集し、分析した結果、役職者を介した採用の成功率が高いことが明らかになりました。データをすぐに抽出できたことで、役職者に対するリファラル採用の施策をクイックに推進することができたといいます。

データベースに複数の情報が蓄積された現在では、採用管理システムと人事部門のダッシュボードが自動的に連携し、各ファイルからのデータが自動生成されるようになっています。採用担当者からの採用状況に関するレポートの要求は頻繁にありますが、自動更新機能は業務の効率化に大きく寄与しており、佐久間はこの自動化による工数削減のメリットを高く評価しています。

データ活用ができる人材を社内で増やすための工夫

カンファレンスの後半では、社内でデータ活用ができる人材を増やすためにはどのようにしたか各社からの話がありました。

一休では毎週、顧客の行動データを代表取締役の榊自らが確認し、全社員が集まる定例で、データからわかるトレンドや気づきなどを社員にレポートをするなど、経営者が積極的にデータを見ることを行っています。これにより社員もデータに対して自然に意識が向き、データ活用をすることに対して前向きになりました。

一休の社内で上手くいった取り組みのひとつに、コンペ形式で同じテーマでプログラムのアイデアを出し合ったことがあります。複数人のデータサイエンティストの社員がそれぞれ必要なプログラムを作り、一番最適なプログラムが作れるかを競うというもので、プログラミングができる代表取締役の榊も一緒に参加したとのこと。一休のサイトで宿泊のレコメンドをする際には複数のアルゴリズムが必要で、プログラムを作るには高度な知識が必要でした。結果、データサイエンティストの心に火がつき、参加者全員が必死で作成します。最も優秀なプログラムは社内で共有することで、上手くプログラムが作れなかった他の社員も、最終的には同様のプログラムが書けるようになりました。

「"育成"という視点で考える必要はない。スキルを持った社員の育成に悩んでるということは、社員全員が育成される対象であるということ。その自覚を社員自身が感じた時に、その人が真っ先にそのコンペに参加して背中を見せるべきだ」と榊。

LINEでは人事内でBIツールを使える人材を増やそうという取り組みに挑戦し、各チームから人を集めて佐久間がレクチャーするという取り組みを行いました。 何度かレクチャーの場を設けた結果、継続的にBIツールを使えるようになった人と一時的な利用で終わってしまった人に二極化したと言います。その大きな違いは、やり方を教わった後に自分でテーマを決めて自ら取り組んだか、そうでないかだったそうです。教わったことを自分ごと化できていた人は、教わった後も自らデータを駆使し、自分でダッシュボードを作れる人材になったと言います。

まとめ

カンファレンスの最後に榊はこのように締めくくりました。

「データというと、テクニカルなものと捉える人が多い。データは、ユーザーや社員の心理を表してる。それはテクニカルな話ではなく、ビジネスそのもの。だから、ビジネスマンの皆さんが真っ先にデータに向かうべきだと思う」

本カンファレンスの重要なポイントは、「データとAIの活用が組織の成長と効率化にどのように貢献しているか」ということでした。データを活用して顧客に最適なサービスを提供する一休の例や、人事業務の自動化を通じて組織のスケーリングを支援するLINEの例は、どの企業においても応用可能な内容です。

経営者は、データとAIを経営戦略の中心に位置づけ、これらの技術を社内で活用することにより、顧客満足度の向上とコスト削減を実現することが重要です。また、人事・人材育成担当者は、社員がデータリテラシーを身につけ、AIツールを効果的に活用できるトレーニングプログラムを実施することが求められます。企業が競争力を維持し、未来に向けて成長を続けるためには、データ分析やAIを活用できる人材の育成が不可欠です。

ご案内

2024年1月29日、LINEヤフーとキラメックスは、データ・AIを活用するための人材育成プログラム「データ・AI活用人材育成プログラム」の法人提供を開始しました。このプログラムは、生成AIやビッグデータに関する基礎的な知識や業務への活用方法、プログラミングスキルなど、未経験者や初心者でもITスキルを習得できるように4つのコースで設計されており、あらゆる企業においてデータやAIの基礎を理解し業務で活用できる人材を増やすことを目的としています。

「AI活用アカデミア」(通常版・短縮版)
LINEヤフーの企業内大学「LINEヤフーアカデミア」がグループ企業内に展開する、エンジニア以外の職種の方を対象にしたAI人材育成コース。「AI基礎知識・最新技術紹介」や「生成AI活用・実践」、「AIプロジェクト推進」など、基礎知識からワークショップまで全7回の講座で業務活用方法の基礎を学べる。通常版はLINEヤフー社員と共に学ぶ約4か月間のコース、短縮版は同じカリキュラムを約1ヶ月で受講可能。

「データ活用基礎コース」
LINEヤフーが社員向けに展開している、ビッグデータや統計に関する研修プログラムを元にしたコース。「定量データ分析基礎」や「統計解析入門」、「はじめてのA/Bテスト入門」など、計9個のコンテンツを集約。何からどのように始めればよいかわからない初心者向け。

「Webアプリケーション開発コース」
プログラミング未経験者からITエンジニアへの転身を支援する「LINEヤフーテックアカデミー」のカリキュラムを基にしており、未経験者でもプログラミングをゼロから学べ、エンジニアとして必要なスキルを身に着けられるコース。

お問い合わせはこちらからお待ちしております。
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